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コラム 裏元町HISTORY その4

CS路上物語

 

 路上観察という不思議な世界をご存知だろうか。話題となったのは1980年代後半。赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊、林丈二といったメンバーが「路上観察学会」と名付け、街歩きを始めたことに端を発するが、爆発的に流行することもなく、“静か”に広がった。各地で隠れキリシタンのようにグループが立ち上がり、路上を徘徊するようになった。
 街を路上観察の視点で観察すると、様々な街の表情が浮かび上がってくる。しかもその場所その街の息遣いが解るのが最大の魅力だ。この路上観察ファン、全国にいる。台湾の路上観察グループと横浜で交流したこともある。
 「路上」を様々なテーマに分類出来るが、中でも「暗渠巡り」「マンホール」といった分野は多くのファンが世界を作り上げている。

路上の肌理細かさ

 「よこはま路上観察学会」を立ち上げて6年になる。路上観察的に元町仲通りを紹介してみたい。
 普段はあまり見上げることの無い通りにも様々なドラマがある。仲通りで曲がった電柱に出会った時は衝撃だった。一般的に電柱は真っ直ぐなものだが、仲通りの一角にあった電柱は美しく曲る「S型鋼管電柱」①だったからだ。”通り”と”電柱”との親和性を求めた結果がS型電柱になったのだと思う。曲がる電柱、そう簡単に設置出来るものではない。近年特に電柱は埋設が主流となり消えつつある存在でかなり希少価値がある。しかも真っ直ぐな電柱を<通り>に設置が難しかったからこそ電柱は特注になったのだ。仲通りの見通しの良さにはこういったひと工夫があったのだ。
 さらに、どこにでもある電柱一本、気がつくと不思議な情報も表示されていることに気がつく。見上げるとそこには電力会社と通信会社の管理プレートが掲示されている。管理用なので一般的ではないが、だからこそこの情報は実に興味深い。なぜなら、設置した時期の情報や、エリアの特性がこのプレートに表記されていることがあるからだ。路上観察的にはこれを「電柱考古学」と呼んでいる。ここに「仲通り川側」②を発見。元町仲通りは、狭い道にも関わらず、通りの左右を区別し川側電柱を区別していることだ。こういった電柱表示もこれまた珍しい。
 視点を路上に移してみよう。仲通りには、路上にも一工夫されたインフラや情報板に出会う。


雨に濡れる街角

 桑田の作詞では馬車道だが、この街の通りも雨が似合う。それは、水が溜まりにくい歩道の素材や、雨水が吸い込まれていく「雨枡」③にも一味違ったデザインが施されているからだろう。
 境界の道標やBM、ベンチマークも違和感なく収まっている。これらは、歩行者には関係ないが、街には必要なものだ。交差点の路上に埋め込まれた通りと<坂道>を示す情報板④がまた見事だ。
 普段は中々気が付かないのだが、ハテ?
 あの坂道へ行くには、今どのあたりかなと思った時には透明のガラスオブジェとロートアイアンを活かした仲通りのインフォメーションボード⑤が、わかりやすくも目立たない存在でそこにある。元町の通りにゴミが無いのと同じだ。上手い比較ではないが、ゴミが無いのではなく街の人々の掃除が行き届いているからだ。これは不断の努力の結果だろう。この街には元町公式ルールブックがあり「住む人」「商う人」の高度で詳細なルールが決められているという。こういった決まりと気遣いが「路上」にも活きている。
 素敵な街の姿は路上が原点だと改めて実感する。

横濱界隈研究家河北直治

横濱界隈研究家。横浜路上観察学会世話人。趣味は市内徘徊、市境を川崎市から横須賀市まで三回踏破、市内全駅下車など歩くことが大好き。